FEATURE

写実絵画の魅力にあふれた若手作家の
入選作品37点を展観。

第2回ホキ美術館大賞・準賞の発表とホキ美術館大賞展。
93点の応募作品の中から大賞を受賞したのは・・・!?

内覧会・記者発表会レポート

第2回ホキ美術館大賞を受賞した鶴友那さん。大賞受賞作品の前で、作品について解説。「人は、異なる価値観を持っていても、五感で感じるものや、生きていることは共有できるのではないかと思う」とコメント
第2回ホキ美術館大賞を受賞した鶴友那さん。大賞受賞作品の前で、作品について解説。
「人は、異なる価値観を持っていても、五感で感じるものや、生きていることは共有できるのではないかと思う」とコメント

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日本初“写実絵画”専門のホキ美術館にて「第2回ホキ美術館大賞展」が開催

医療施設の製品の開発や供給を行う企業、株式会社ホギメディカルの創業者である保木将夫氏によって、2010年11月3日に千葉市緑区に創設されたホキ美術館は、日本で初めての「写実絵画」を専門とした美術館である。2013年11月に開催された「第1回ホキ美術館大賞展」に続いて、この度「第2回ホキ美術館大賞展」が開催され、ホキ美術館大賞・準賞と37点の入選作品が発表された。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「第2回ホキ美術館大賞展」
開催美術館:ホキ美術館
開催期間:2016年11月18日(金)~2017年5月15日(月)

写実絵画の表現の魅力とは?

「写実絵画」とは、目の前にある現実をキャンバスにそのまま写し取ったかのような、写真かと見紛うほどの緻密さでリアルに描かれた絵画である。写真は、人の表情も体の動きも木の葉の揺れも、水の流れも、一瞬の時間が切り取られるが、写実絵画はその一瞬の場面を長い月日をかけて、キャンバスの上に表現していく。

では、写実絵画において、人の表情の機微や水の流れや風景は、どのような表現性を見せるのであろうか。

ホキ美術館内で行われた、大賞・準賞の授賞式
ホキ美術館内で行われた、大賞・準賞の授賞式

ホキ美術館では、2013年11月に初めて、「第1回ホキ美術館大賞展」が開催された。新人写実作家の発掘と写実絵画の発展のために公募し、全国から86名116点の応募があった。 そして、それに続いて現在、「第2回ホキ美術館大賞展」が開催されている。受賞作品の選定は、創設者の保木将夫氏とホキ美術館館長 保木博子氏により行われている。これまでの収蔵品においても、選定された作品においても、医療というきめ細かさや厳密さが求められる分野に携わるホギメディカルだからこその写実絵画に対する審美眼が感じられる。

鶴友那さんの《ながれとどまりうずまききえる》
鶴友那さんの《ながれとどまりうずまききえる》

こちらの絵は、第2回ホキ美術館大賞公募の実施により、全国各地から93点の応募が寄せられた中で、大賞に輝いた作品である。まず、描かれている人物のモデルは、画家本人である。画家の出身地である佐賀県と福岡県の県境にある渓谷を舞台に描かれている。

キャンバスのサイズは、横162cm×縦162cmとかなり大きなものであり、ちょうどキャンバス中央、水の流れの中に身を横たえた女性のところに目の高さが来る程度の位置に展示されている。手を伸ばせば、いまにも水の流れに触れることができそうで、渓谷のひんやりとした温度感を指先に感じるような錯覚に陥る。

目の前にある水は流れ続けているように見える。そして、透きとおる水の流れと水面を照らす光の中に、身を横たえる女性は何を思っているのか。画面の奥には岩々があり、その向こうの木々の茂みが見え隠れして、渓谷の山深さを思わせる。

手前に広がる水面の透明感からはじまり、画面奥には木々の茂みが描かれた前後の奥行と画面右から左に流れ続ける水の動き、そのちょうど真ん中で、無抵抗に自然の中に全身をゆだねている女性。 画面全体は、自然の光景も女性の姿態も美しい。しかし、水かさがいつ増してもおかしく無い渓谷の水流に無防備に身体を横たえる女性の姿からは、ありのままの自然を肌で感じようと、自然そのものと一体となろうとしているのか。静けさの中にも臨場感が感じられ、心ゆさぶる迫力が画面いっぱいに満ちている。

第2回ホキ美術館大賞を受賞した鶴友那さん
第2回ホキ美術館大賞を受賞した鶴友那さん

第2回ホキ美術館大賞を受賞された画家の鶴友那さんの作品へのコメントの一部を紹介する。

「生きることをテーマとして制作をしてきたこともあり、生と死を連想させる水は大変興味深いモチーフでした。実際に渓谷を訪れると、音や匂い、肌で感じる冷たさ等に包み込まれるような不思議な感覚となり、ただ流れゆく水のエネルギーを強く感じました。人は、異なる価値観を持っていても、五感で感じるものや、生きていることは共有できるのではないかと思います。」

準賞作品は、後藤勇治さんの《ガスタンクのある風景》。「空や木々といった自然に人工物の球体を対比させています」とコメント。

こちらは準賞を受賞した後藤勇治さんの《ガスタンクのある風景》である。タイトルにあるガスタンクは、画面中央の奥にちょこんと見える。手前左にある水色のハンドルは、用水路の水門を開閉するものだろうか。このハンドルを握る人物の大きさを想像すると、ガスタンクとの遠近感の対比が面白い。そして、画面上部に半分以上を締める空に広がる雲の合間からわずかに覗く青空や、夕暮れを感じさせる淡い夕陽の色は郷愁を感じさせるとともに、画家の優しさのある眼差しから投げかけられるものが見え隠れする。

第2回ホキ美術館大賞準賞受賞作 後藤勇治《ガスタンクのある風景》2016年
第2回ホキ美術館大賞準賞受賞作 後藤勇治《ガスタンクのある風景》2016年

こちらの作品に寄せられた画家の後藤勇治さんのコメントはこちら。

「まず、この作品に対面すると絵のサイズに比べて中心のガスタンクの小ささが印象に残るでしょう。最初にこの風景が絵になるのではないかと思い始めたのが数年前になります。今回、作品化するに当たって最適な構図を探して何度も現地に通いました。絵の中心はガスタンクですが、画面の大きさに比べてかなり小さく描くことにより、空や木々といった自然に人工物の球体を対比させています。」

第2回ホキ美術館大賞準賞を受賞した後藤勇治さんによる作品解説
第2回ホキ美術館大賞準賞を受賞した後藤勇治さんによる作品解説

写実絵画は、細密に描かれた写実性があるが、この絵は、まるでそこに流れてきた長い時間も留めているかのようだ。写真でいえば、シャッターを押した瞬間の光景というよりも、この景色そのものが過ごしてきた年月を感じさせるような不思議な魅力が画面から表れている。それは、まさにガスタンクという人工物の球体が、まるで北極星のように、同じ姿で同じ場所に留まり、四季の移ろいとともに空や畑や木々といった周りの自然が変化してきた年月を見守ってきたかのようである。

第2回ホキ美術館大賞準賞を受賞した後藤勇治さんによる作品解説
第2回ホキ美術館大賞準賞を受賞した後藤勇治さんによる作品解説

2010年に開館した比較的新しい美術館であるホキ美術館は、美術館の建築も、写実絵画というものに向き合うのに最適な環境を目指して設計されていて、実際に心地よく鑑賞することができる。写実絵画の魅力に存分に触れることができる、特異な個性が光る美術館である。

今回のホキ美術館大賞は、40歳以下の作家による写実絵画作品を対象とした公募であった。大賞・準賞の受賞作以外に、入選作品35点も現在展示されており、いずれも大賞・準賞作にも負けない素晴らしい作品が多々ある。現在、会期中で2月末までに実際にこれらの作品を見た方による特別賞の投票が行われている。入選35作品のなかから1作品が決定し、3月に特別賞として発表されるので、ぜひこれから足を運ばれる方は、投票に参加してはいかがだろうか。

今後の写実絵画という分野がどう展開されていくかが楽しみに感じられる、第2回目のホキ美術館大賞展であった。

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ホキ美術館|HOKI MUSEUM
〒267-0067 千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15
開館時間:10:00〜17:30(最終入館時間 17:00)
定休日:火曜日

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