アートディレクター 佐藤卓氏のディレクションによる「デザインの解剖展」が、六本木 21_21 DESIGN SIGHTで開催。「解剖」によって見えてくる、人の行動決定に影響を与える“デザインの底力”


「きのこの山」「ブルガリアヨーグルト」「おいしい牛乳」など、私たち日本人にはお馴染みの製品を、デザインの視点から“解剖”した展覧会が、21_21 DESIGN SIGHT(東京都港区六本木)にて、開催中である。


アートディレクター 佐藤卓氏
今回の展覧会では、「ミルクチョコレート」「スーパーカップ」を加えた株式会社明治の5つの製品を取り上げている。製品の誕生から今日までのロゴやパッケージのデザインの変遷、1枚の大判の紙にパッケージのデザインがいくつも面付けされたり、ロール状になった普段見ることのできない印刷工程、また、パッケージの外装をドットのレベル(網点)まで拡大して細部を観察できる仕組みなど、これまでにない切り口で、原料や製法、製品管理から流通に至る幅広い要素まで掘り下げて、つぶさに観察し、あらたな視点で捉え直すことを目的とした試みだ。


アートディレクター 佐藤卓氏やクリエイターらによるデザインの“解剖”

こちらは、きのこのフォルムが愛らしい、チョコレートの笠をかぶったビスケット「きのこの山」のブースである。指先ほどの小さなお菓子が、人間よりも大きな、巨大サイズとなって出現している。手前にあるのはパッケージに描かれた風景をジオラマで立体化したもの。「きのこの山」は、お菓子のパッケージの中とはいえ、こんなのどかで緑豊かな丘で過ごしているのだ。さて、デザインを“解剖”して見えてくるものとは何であろうか?



あらゆる角度から製品を“解剖”し、再構築したり、捉え直す、“デザインの解剖”という試みを、アートディレクターである佐藤卓氏は、これまで10年以上続けている。過去には「ロッテ キシリトールガム」「富士フイルム 写ルンです」などの製品が“解剖”されてきた。解剖の要素としては、「歴史」「名称」「正面外装グラフィック」「Webサイトの配色」「内装の素材」「形状の検証」「糖度」などがあり、デザインの視点を経由してそれらの要素をクリエイティブな手法で再提示し、再定義する。今回は“解剖”の成果を佐藤卓氏の元、多くのクリエイター※たちとともに紹介している。

※荒牧 悠、aircord、奥田透也、小沢朋子(モコメシ)、佐久間 茜(文字なぞり部)、柴田大平(WOW)、下浜臨太郎、菅 俊一、鈴木啓太、高橋琢哉、中野豪雄、原田和明、細金卓矢ら、様々な分野で活躍するクリエイターらによって行われた“デザインの解剖”もそれぞれに興味深い視点による作品を提示している。

“解剖”によって浮かび上がる、「デザイン」による情報伝達の最適化

こちらは、アートディレクター 中野豪雄(なかのたけお)氏がグラフィック化した「ウェブサイトの解析」の図である。

アートディレクター 中野豪雄氏による、「ウェブサイトの解析」の図

一企業のサイト全体の中で、一製品が、どのような位置づけにあるか、トップぺージから下部階層までの家系図のようなグラフィックに表したり(写真左)、クリック数の多かったページを光量で示すなど(この時もっとも大きな光を発していた部分は「懸賞キャンペーン」ページだったそう・写真中央上)、PCに向かってウェブサイトのぺージを辿らなくても、全体がひとつのグラフィックに落とし込まれて可視化されている。

また、サイトに用いられる配色がどのような色が多く採用されているかを見ると、黄色や緑のほか、株式会社明治のブランドカラーの赤が中心に使われているのがわかる(写真右上)。どのような言葉が多く使われているのか品詞ごとに解体、よく使われる言葉が色濃く示され、セットでよく使われる語には線が結ばれている(写真右下)。まさかこの図が、両手サイズの菓子製品にまつわる情報の集積だとは、だれも想像しないだろう。製品を特徴づけるものが何なのか、ウェブサイトの解析を通じて、浮かび上がってくるものがある。


続いてこちらは、ヨーグルト製品のグラフィック要素を細かく分解し、立体構造にしたもの。片手に持つことのできる小さな製品にでも、あらためて見ると思いのほか多くの情報が詰まっていることがわかる。感覚的に見やすく理解しやすい形に再構築した“解剖されたデザイン”によって、デザインの持つ奥行が見えてくる。

ブルガリアヨーグルトのパッケージデザインのグラフィック要素を細かく分解し、立体構造にしたもの

競合他社の商品が多くある中で、より打ち出したい商品の特徴を知ってもらい、手にとって購入してもらうために、「デザイン」により情報伝達を最適化させ、製品の魅力が視覚的にも触感からも消費者に訴える役目を、デザインは果たしている。

感覚的に見やすく理解しやすい形に“解剖されたデザイン”によって、デザインの持つ奥行を垣間見ることのできる展覧会である。

行動の意志決定に影響を与える、デザインの“底力”

こちらは、アートディレクター 下浜臨太郎氏による、「おいしい牛乳」パッケージの「おいしい」の部分を自由に任意のひらがなに置き換えられるという、積み木のおもちゃ。

アートディレクター 下浜臨太郎氏による、「おいしい牛乳」パッケージの積み木のおもちゃ

「まれにみる牛乳」「あのときゆめにみた牛乳」「よっぽどの牛乳」、どんな文字列でも許容してしまう包容力あるパッケージデザインによって、「おいしい牛乳」の製品が持つ印象は不思議と変わらない。

「おいしい牛乳」は、2002年に発売開始されて以来、現在に至るまで、たいていのコンビニやスーパーで見かける馴染みある製品である。パッケージの色味といいフォントのたたずまいといい、シンプルながらも、飽きがこず、親しみや安心感を感じさせるデザイン性といえるのではないだろうか。積み木のおもちゃとなった「おいしい牛乳」で遊びながら、縁の下から顔をのぞかせたデザインの“底力”に気がつく。

例えば、ヨーグルトも牛乳も、消費される製品の中身自体は、どのメーカーのものでもほとんど見た目だけでは、区別が付かない。そのため、わたしたち消費者が商品を手に取るとき、製品が纏うデザイン的な要素は、間違いなくわたしたちの購買行動に影響を与える。デザインを通じて製品を理解しようと観察し、その製品が確かに必要性があるものか、あるいは他社の製品と比べて、価値や魅力が大きいかなどを判断して、「購入」を決定する。

「デザイン」には、無意識のうちにも人に瞬時な判断を促せるだけの“力”や“効果”がある。自分が何を選び、何を選ばないか、分かれ道を右に進むか左に進むか、何が好きで何を嫌いと感じるか、どんなモチベーションが喚起されて次に取る行動を決めるか、などにおいても、そこかしこに潜む「デザイン」があなたの行動を決定づけたり、無意識のうちに思考や思想に影響を与えている部分は、決して小さくはないはずだ。

製品が纏うデザインは、視覚や触覚を通じてどのように脳や意識に働きかけているか、わたしたちが製品を手に取り、購入意志決定まで背中を押すものの正体は、一体デザインのどこに潜んでいるのか。この展覧会の“解剖”を観察することで、そんな考察の答えも浮かび上がってくるかもしれない。



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